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まほやくキャラ名の元ネタを読む:元ネタ一覧

 まほやくキャラの名前には元ネタとなる文学作品があるといわれています。

魔法使いたちの名前は文学作品の登場人物から付けられてるとのことですが、ルチルとミチルは出典が分かり易くていいですな。

引用元:SPECIAL | 魔法使いの約束 公式サイト
インタビュー回答 ミスラ役 高橋広樹さん

 「フィガロ」や「ファウスト」といった代表的な作品を脳直で連想出来るような名前はともかく、元ネタとされる作品に対しそもそもその作品が本当に元ネタなのか?(問1)…はまあ厳密には公式のみぞ知るところではありますが、これだろうなという感覚が各々ある程度あるかと思います。「元ネタ」とは基本的には受け取り手がそれを知っているか、あるいは辿り着くと期待されて設定されるものです。オマージュやパロディとまではいかないにせよ、受け取り手に通じなかったらそもそも元ネタは意味を持たないというか、「元ネタ」として設定されている意義を失います。
 また冒頭に挙げた「フィガロ」「ファウスト」等のようにほぼ確からしく元ネタが特定出来るような名前に関しても、実際何か関連あるのか?(問2)といったところが気になります。

 本稿ではこの2種類の問いについて考えていきます。

 <2020/12/26追記>
 これはじめに書いておくべきだったんですが、まずまほやくキャラの名前の元ネタというものの定義というか、その作用の範囲を明らかにしておきます。
 私は「キャラ名に元ネタがある」とはあくまで「名前」の元ネタであり「キャラクター」の元ネタではないと考えています。FGOなんかの英霊とか呼ばれているようなキャラクターメイキングとは違い、まほやくのアーサーはアーサーという名前ではありますがアーサー王そのものではありません
 キャラの名前に元ネタとされる作品の登場人物の名前を採用することで、私たちは少なからず「この名前といえばあの作品だな」と想像します。「名前」で繋がりを持たせ連想させることで、まほやく世界全体へその元ネタ作品の要素を採用し易くしているといった認識です。頭の片隅にでもその元ネタの作品の印象が置かれていれば、その元ネタ作品に重なるような設定が出てきた際に理解が容易になるというか、取っつき易くなります。「元ネタ」に期待されているのはそのような作用なのではないかと思うのです。
 そういった作用や効果を期待されていることは都志見先生のインタビュー記事からも伺えます。

国の名称も『オズの魔法使い』で「西の魔女」や「東の魔女」と呼ばれるのに重なるようにつけています。

引用元:【インタビュー】現実世界を強く生きられるような物語を――『魔法使いの約束』都志見文太の創作論 - ライブドアニュース

 「オズ」とは『オズの魔法使い』に出てくる魔法使いを騙る詐欺師の名前ですが、まほやくキャラとしてのオズは真実魔法使いであり詐欺師ではありません。一方で、一般によく知られている『オズの魔法使い』の「西の国」や「東の国」といった設定は、まほやくの世界観設定の元ネタとして採用されています。『オズの魔法使い』がオズというキャラクター単体だけの元ネタではないのですから、他のキャラの元ネタ作品も、おそらくはその名前を持つキャラだけのものではなく、まほやく世界全体へ、あるいはその元ネタの名前のキャラ以外のところへ持ち込まれている可能性が十分考えられます。
 </追記ここまで>

 まずは問いへの答えとして自分の現状での見解を示しておきます。 

オズ Oz オズの魔法使い』フランク・バウム 「魔法使い」
アーサー Arthur アーサー王伝説 聖剣、シチューと「聖杯」
カイン Cain 旧約聖書 「カインの刻印」
リケ Riquet 『巻き毛のリケ』シャルル・ペロー  
スノウ Snow 「白雪姫」  
ホワイト White 「白雪姫」  
ミスラ Mithra 『魔術』芥川龍之介  「魔術」
オーエン Owen そして誰もいなくなったアガサ・クリスティ 「カインの刻印」
ブラッドリー Bradley 『フェッセンデンの宇宙』エドモンド・ハミルトン  
ファウスト Faust ファウスト伝説 「魔法使い」
シノ Shino 南総里見八犬伝曲亭馬琴  豆柴
ヒースクリフ Heathcliff 嵐が丘エミリー・ブロンテ ヒースの花=「箒」
ネロ Nero ネロ・ウルフシリーズ」レックス・スタウト 「美食家」
シャイロック Shylock ヴェニスの商人シェイクスピア 「心臓」の肉1ポンド
ムル Murr 『牡猫ムルの人生観』ホフマン  
クロエ Chloe 『ダフニスとクロエ』ロンゴス  
ラスティカ Rustica 『幸福な王子』オスカー・ワイルド ツバメとサファイア
フィガロ Figaro セビリアの理髪師ボーマルシェ 理髪師=「医者」
ルチル Rutile 『青い鳥』メーテルリンク ※スペルが異なる
レノックス Lennox 秘密の花園』バーネット夫人  
ミチル Mitile 『青い鳥』メーテルリンク ※スペルが異なる

 候補が幾つかあったものは自分の知っている限りですが内容の共通点象徴の連想で判断しました。

 たとえばよく言われている(気がする)ネロの『フランダースの犬』説ですが、あちらのネロはNeroではなく「Nello」であり、「ニコラス」の愛称であることが作中で説明されています。

 Little Nello—-which was but a pet diminutive for Nicolas—throve with him,

 引用元:A Dog of Flanders by Ouida - Free Ebook
 Format:Read this book online: HTML 

 「小さなネロはジェハンおじいさんと一緒に暮らしていました。ネロはニコラスの愛称です」と訳せます。よって「Nero」と綴られるネロに該当するのは『フランダースの犬』ではなく「ネロ・ウルフシリーズ」の方ではないかと判断している次第です。
 なおネロは暴君として名高いローマ皇帝ネロ説もあり、こちらは確かにスペルもNeroなのですが、あくまで史実人名であり物語(=文学)の登場人物としての名前ではないところが腑に落ちませんでした。「ネロ・ウルフシリーズ」の探偵ネロは「美食家」であり、「食」という強い共通点があります。

 判断の仕方としてはカインとミスラが同様ですね。

 カインはただ旧約聖書のカインというだけではネロ帝と同じように決め手に欠けるのですが、オーエンの元ネタと思われる『そして誰もいなくなった』に「カインの刻印」というものが登場します。この「カインの刻印」は旧約聖書のカインを元ネタとするものなので、元ネタの元ネタとしての繋がりとまほやくにおけるカインとオーエンの描かれ方を踏まえれば旧約聖書のカインであっても納得があります。

 ミスラはイラン神話の神ミスラ説があるようですが、こちらもただ神の名を持ってくるには根拠が弱いように思えます。契約や約束を司る名なので確かに捨てがたいのですが、であれば「Mithra ミスラ」ではなく「Mitra ミトラ」でもよかった筈です(当該の神を話題にするにあたり「より一般に知られている」のは後者の名称だなあといった印象があります)。
 一方、芥川の『魔術』はカタカナ表記「ミスラ」である根拠にもなり、またインド人名なので元を辿ればおそらく同じ神の名にあたります。よって神Miθraの要素を踏まえた上で「文学作品の登場人物」に限定するなら『魔術』が挙がるかなあといったところです。

 なお神Miθraの名における契約/約束とは、自然に近いものとして信じる/信仰する力としての魔術に対をなす形で定義されます。自然の神秘から力を得る「魔法使い」に対する、明文化されたビジネス的な契約書のような、言った言わないでは信用に欠けるから文書で残そうといったような「人間」側の技術としての概念です。
 信じる強さ・思いの強さが魔法使いの力になる一方、忘れてしまっても思い出すことができるようにといった賢者の書書記官クックロビンの申し出を彷彿とさせませんか? こういった二義性は「魔法使いの約束」における大きなテーマでもありますね。

 その他ざっくりですが根拠これだろうなと自分が思い当たるものを表の右端セルに書き入れてます。例として取り上げたカイン、ネロ、ミスラに関してももう少し詳しく、それ以外のキャラも別記事で個別に考えていけたら……いいな……。リケやスノホワ、ムルなんかはきちんとした説明ができるに至ってはいないながらもなんとなくレベルでの「分かり」があるのでキャラをもう少しきちんと知っていけば明文化出来そうな根拠が得られそうです。一方シノとクロエの2名には正直現状ではピンときていないので元ネタが見当違いの可能性も大いにあります。またルチルとミチルのスペルも引っ掛かります。『青い鳥』のチルチルとミチルはTyltylとMytilですが、まほやくのルチルとミチルはRutileとMitileであり、元ネタと思われる作品のスペルとは異なります。Rutileは宝石としての金紅石、ルチルクォーツなんかが有名ですね。Mitileはムラサキガイ(ムール貝)、あるいはレスボス島の都市ミティリニとなり、レスボス島は偶然にも『ダフニスとクロエ』の舞台です。

 はじめの方にも書きましたが元ネタが何かというところは結局公式しか知り得ないので、現状でピンとこないものに関しては保留にしたいところです。
 これだろうと予想される元ネタがあまり有名でなかったりする場合、ユーザーの何割がそれ知ってるんだ……?(取り入れたところで伝わるのか?)とも思うので、どちらかというとわざわざ調べて辿り着くことを想定して、知ったときにあ~……となってしまうような、強く皮肉の効いた寓話があてられているような気がします。まほやくそういうところある。しかしまあしつこいようですがこればかりは公式にしか分からないことなので、われわれに出来るのは想像し推し量るのみなのですが。

 前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、当方のキャラクターとしての推しはオズ・アーサー・スノホワ、経歴的な得意分野でちょっと蘊蓄放出できそうなのがファウストフィガロなので、そのあたりの元ネタと思わしき作品から読んだり考えたりしていければと思います。

 

続く

 

以下、「元ネタ読んでみた」の先輩賢者様をご紹介しておきます。

『フェッセンデンの宇宙』がセラムンアニメシリーズ「セーラースターズ」にてはるかとみちるの会話に登場していることに触れられています。繰り返しますが元ネタは受け取り手に伝わってはじめて「元ネタ」として成立するものなので、まほやくユーザーに期待される「セラムン履修率」を考えるに至りました。

ヒースとシノの関係性を踏まえての元ネタとの関連付けが当方にとってのカインへの根拠の求め方に近く参考にさせていただきました。『嵐が丘』は美内すずえの漫画『ガラスの仮面』、あとALI PROJECTの曲名にもありますね。

ノヴァーリスは自分の専攻だったのでラスティカの元ネタとして『青い花』が挙げられているのが目に留まりました。ツバメ、サファイア、最初に救ったのがお針子であり与えたのがルビーだったこと等を根拠とした『幸福な王子』説に概ね同意です。

 

参考リンク

連載 第8回 なぜ「グリムの法則」が英語史上重要なのか
『ガラスの仮面』の「嵐が丘」 | 柔ら雨(やーらあみ)よ 欲(ぷ)さよ
ALI PROJECT 嵐ヶ丘 歌詞 - J-Lyric.net